いがしち、杭を抜く。
ある日、谷田川の川縁に集まり思案顔の農民たち。
そこに通りかかった、いがしち。
おめら、なにやってんだ、どした?」
「あぁ、いがしっつぁん、この杭がどうやっても抜けなくてよ、困ってんだぁ」
するといがしちは、おもむろに「九段そろばん」をはじきはじめ、何やらを導き出す。
「いいがぁ、ここんとここうやって、あぁやって、ほんで、こうしてみろ」
村人たちが意味もわからないまま、言われた通りにすると、するっとわけなく杭が抜ける。
「こりゃ、たまげだな!」
ドヤ顔のいがしち、しかし村人たちの視線は・・・
「いーや、どうも、すげぇなこの算盤」
「この銭で、蕎麦食いに行くべよ」
「いや、たま屋の饅頭の方がよがっぺ」
「おら、酒のみでなぁ」
伊賀七オリジナルの九段そろばんは、縦34cm×横37cm、珠には寛永通宝を648枚も使っていた。